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Simulator

シミュレーターを使うこと=シミュレーションではない

教育目標や内容に合わせて適切な教授法を選択することが重要である。トレーニング・教育を行う多数の手段の一つとしてシミュレーションがあり、その手段を講じる多数のツールの一つとしてシミュレーターという装置類がある。教育する体制やカリキュラムがあってシミュレーショントレーニングが成立し、シミュレーターというツールの使用を検討できる。「シミュレーター教育」という言葉は誤解を招く可能性がある。業者側の語弊もあるが、シミュレーターを買うだけで教育の問題は解決しない。シミュレーターの前に学習者と教育者が一緒に立って、時間を費やさなければ効果は期待できない。


シミュレーター購入するかどうかではない。どのように使用するかをまず考えよう。

シミュレーターの購入は一般に高額になる。シミュレーターを購入するも飾ったままということにならないためにも、何を教えるためにどのように使用するかを十分考慮した上で、購入することが重要だろう。シミュレーターを用いた教育・トレーニングに成功している施設をみると、かなりの頻度で使用され、明確な学習目標とその評価が必ず取り込まれている。

  • 一般的なシミュレーター:センター主体の教育活動に必要なものはセンターで購入・管理する。これにはBLS用マネキンなどが含まれるだろう。
  • 診療科固有のシミュレーター:各診療科の目的に沿ったシミュレーターが該当する。外科領域では内視鏡手術のシミュレーターなどがこれにあたる。各部門の要望(教育目標など)を聴取し、シミュレーターを利用した教育が適切であればセンターで購入を采配する。複数部門で共用できる汎用性があるものについては可及的に統合し、利用者数を確保する。各部門は購入希望と同時に使用用途と見込まれる利用者数、評価のプランを考慮してもらうことが大切である。

シミュレーター購入に際して検討したい項目をまとめ

  • セットアップ:利用頻度にも影響する問題である.時間内・時間外を問わず教育者と学習者がセットで利用実績が見込める場合のみセンターとして購入を検討する。学習者の自主練習に使用できるか?自主練習は補足手段で、自主練習のみを想定した利用計画に基づく購入は原則として行わないほうがいいだろう。多くのデータにより教育者による指導の有用性と到達度の評価の重要性が示されている。時間外などの利用に過度な制限は設けたくないが、非監督下での不適切な使用による器物損壊は避けたい。しかし完全予約制・資格制にしてしまうと敷居が高くなり、自発的な利用が減る恐れがある。高価で複雑なシミュレーターは監督を要する許可制とし、比較的簡単で安価なものは個人・グループ使用を認めるなどバランスを考慮する。
  • 価格・運用:高価な機器が多く適切な予算配分のためにも利用状況を予測把握することが重要となる。購入を検討する際は、必ずメンテナンス費用、消耗品の価格もチェックする。数年間のメンテナンスサポートが価格に含まれているシミュレーターも存在する。デリケートな機器も多く、管理が行き届かないと部品が破損したり、消耗品が補充されなかったりすることがある。例えばCV穿刺用のコンニャク状物質は針による穿刺に何度も耐えられるハイテク素材であるが,メスで切開してしまうと元に戻らなくなる。ペンシルベニア大学では、事前の注意にもかかわらず学習者がCV穿刺キットに含まれているメスで切開し、シミュレーターをダメにしてしまう事件が多発した。また、使用後に超音波用のゼリーが放置されベトベトになってしまう...などは万国共通のようだ。翌日のために準備しておいたものが時間外に荒らされないようにしたい。
  • 各部門で独自に購入した場合の対応:例えば麻酔科が独自に高機能マネキンを購入した場合、誰が管理するのか、メンテナンスや保守管理、消耗品等の費用は誰が負担するのか、他科も使って良いのか、その場合の費用は…また使用実績が無い場合・修理されず放置されている場合などの廃棄処分の判断および決定は誰がするのかなどを事前に検討する。
  • 業者デモ:試用についてはシミュレーション施設を提供して行う。このような活動を通じてシミュレーションセンターの存在を内外に周知していこうとする活動も重要である。