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SimWiki

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シミュレーショントレーニングの意義

伝統的な臨床教育では,実際の臨床経験を積むことが唯一の教育手段であった.暗黙の了承で,未熟者や非資格者が患者で失敗経験を重ねることが技術向上の大前提となっていた.これは患者の安全意識が高まり,最善の医療を受ける権利が基本的人権として浸透している現代において許容されなくなってきている.

この状況を打破するために有望視されている手段がシミュレーションである.個々の手技等はもちろん,実際の臨床体験そのものを総合的に再現することができるシミュレーションは教育のみならず,研究開発においても患者関連のリスクや利益相反といった不正の懸念を払拭でき,医療の質の向上を図るための強力なツールである.

シミュレーショントレーニングは今まで患者を練習台にして負わせていた教育の負債を肩代わりするものであり,多大なコストを要するものである.このコストに見合う恩恵が得られていることを証明するためにも継続的なデータを収集と学術活動で,説明責任ならびに会計責任を果たしていく必要がある.

今では多くの有効性が証明され,北米の医学部教育・卒後教育では不可欠な存在であり,若い世代にはかなり浸透したトレーニングになっている.このことから"See one, do one, teach one"から"Sim one, do one, teach one"とも言われている.

聖路加国際大学では医療の質を改善するために臨床現場を総合的に再現し,実践的な教育・研究・開発を行う場所と定義している.

シミュレーションセンターの必要性

多様性をもった医療現場を想定しトレーニング・教育を考えた場合,実際の臨床現場をトレーニングに使用するには限界が生じてくる.また,高度なシミュレーター,シナリオ,レクチャーとハンズオンを組み合わせたプログラムの実施には,臨床現場に近似した専門の施設,専門のスタッフが求められる.

単一職種・分野であれば,専用設備を使わずとも現場環境を頭の中で想像したイメトレ式のシミュレーション(症例検討など)を行ったり,特定の手技だけを単離して練習(スキルズラボ)することが可能であろう.これには必ずしも専用施設は必要ないかもしれない.多職種・多分野のトレーニングを考えた場合,相互関係やコミュニケーションが重要になってくる.それぞれの職種が何を考え,何を根拠に,何を求めて行動しているのか.机上の空論ではなく,患者を中心とした実際の現場環境での演習の価値が高まってくる.また,他職種・異業種を含める場合,医療現場そのものを想像してもらうことができないため現場環境を用意する必要が生じてくる.

さらには医療機器の開発においても,ほぼ現場同様の環境を用意することが必然となる.完全にコンピュータの中で人体を再現できてしまう遠い将来がやってきても,最終的には現場同様の環境で検証する必要がある.いきなり現場に持ち込むことはリスクが高いため,なるべく高次元に現場を再現したシミュレーション環境を準備することが望まれる.

ペンシルバニア大学外科 シミュレーション教育フェロー
宮坂清之(右)

マギル大学低侵襲外科 教育リサーチフェロー
渡辺祐介(左)