SEWは,2つの外科教育系学会(ASE: Association for Surgical Education, APDS: Association of Program Directors in Surgery) が合同で開催する学術集会である.研究発表はもちろんのこと,会期中に多くのワークショップが開催されるのが特徴の一つである.ワークショップの内容は多岐に渡るが,外科教育に携わる者や初学者から研究者まで満足できるコースが多く開催される.発表に来るだけではなく,ぜひともいろいろなワークショップに参加していただきたいおすすめの学会である. 会場は多くの人で埋め尽くされるのも特徴で、議論が尽きることはない.教育に携わる人たちの温かさ、熱意も感じとれる学会なので,参加してみてはどうでしょか. 2015年は4月21-25日にシアトルで開催されます.詳細についてはリンクをチェックしてくてみてください.http://www.surgicaleducation.com/annual-meeting-information-overview 例年,抄録締切は9−10月/学会は3−4月.SAGESの翌週に解されることが多い. Yusuke
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臨床シミュレーションは医学教育(医師の教育)が注目されがちですが、臨床医療に関わる全ての職種に関係があることで、看護教育の領域でも研究が進んでいます。 2014年7月に米国の看護師団体NCSBN(National Council of State Boards of Nursing)が看護学部教育におけるシミュレーション教育の多施設共同無作為化比較試験(考え方によっては非劣性試験)の最終結果を発表しました。 このNCSBN National Simulation Studyは全米各地の10施設で入学時に看護学生(後の国家試験受験者合計660名)を無作為に下記の三郡に分類したものです:
結論から言うと、米国の看護学部教育において、臨床実習時間の25~50%をシミュレーションに置き換えても、看護学の知識(試験の点数)、看護師国家試験(NCLEX)の初回受験合格率、そして看護師として就職してから6ヶ月経過するまでの職場での評価に有意差がなかったことが報告されました。つまり、臨床実習とシミュレーション実習の学習効果は看護学部教育においてほぼ同等であると見なせる可能性があります 医学部的に言い換えると、古来からの伝統である臨床実習(いわゆるポリクリやクリニカル・クラークシップ)の時間を半分シミュレーションで置き換えても、CBTの成績や国試の合格率が変わらなかったことに相当する、かなりインパクトのある研究です。 伝統的に看護学部では座学で学んでから、病院等で患者の担当となる診療参加型臨床実習で実地経験を得ます。米国では今後の高齢化を見越して看護師の増員を計るため看護学生数を増やしており、現場での実習受け入れが圧迫されています。特に急性期病棟では医療安全を理由に受け入れ可能な看護学生の数を制限したり、経験可能な処置等に制限を設けるなどしています。よって、看護学校で特に急性期看護の教育と実地経験をどのように確保するかという議論が活発化。臨床実習をシミュレーション教育で代用できないか?どの程度まで置換できるのか?という質問に答えるスタディーが企画されるに至ったわけです。 臨床とシミュレーションを同等(1:1)と結論づけるのは時期尚早かもしれません。しかし、当スタディーは少なくとも看護学部教育において従来の教育手法と比較してシミュレーション教育の非劣性を示唆しています。また、試験の成績や合格率の変動を過度に心配せず看護教育カリキュラムに手を加えてシミュレーション教育を推進できる判断材料にはなりそうです。 https://www.ncsbn.org/JNR_Simulation_Supplement.pdf Kiyoyuki
米国ではACGME(Accreditation Council for Graduate Medical Education)という機関が卒後臨床研修プログラムの許認可を行っています。米国の医師会や病院協会、医科大学協会などが合同で運営する民間の非営利団体ですが、ACGMEが定めるルールは関係者にとっては法律と同様の強制力を持ち、事実上の国際標準としての影響力もあります。 このACGMEが前回の投稿でお話しした「良い医師とは何か?」という質問に対して専門家を集めて協議し、捻出した答えが下記六つのコンピテンシー(Competencies)です。コンピテンシーは概ね「能力」に相当する言葉で、知識や技能、態度についてどれだけ基準を満たす仕事が出来るかを表現するものです。ACGME的に、良い医師(研修医)には下記の領域における「能力」が求められるということです: 1. Patient Care (and Clinical Skills):患者のケア。患者の話を聞くなど、患者本位の医療を実践することが主旨だが、確実な手技など技術的な面も含む。 2. Medical Knowledge:適切な医学的知識。 3. Practice-Based Learning and Improvement:自己研鑽、自己学習。最新のエビデンス基づく診療や教育の実践など。 4. Interpersonal and Communication Skills:対人関係、コミュニケーション能力。 5. Professionalism:プロとしての責任感、態度、倫理観。 6. Systems-Based Practice:医療システムの社会的役割の認識、主にはコスト意識を持った保険医療の実践など。 臨床研修において、それぞれのコンピテンシーを意識した総括的評価が求められます。今までは所定の年数を経てから経験症例数やレポートといった提出物や専門医試験などにより一括で評価されていました。しかし、より詳細な管理責任・説明責任を求めるようになってきた世情を背景として継続的な評価が求められ、現時点で年2回の報告を行うようACGMEが制度化したのがMilestone Projectです。 Milestoneとは「標石」、つまり研修の経過において節目となる到達目標を意味します。ACGMEが次世代の認定制度として提唱し、一般外科など診療科毎の到達目標や評価項目について主な学会と協力したMilestone Projectが2013年から実施されています。 一般外科では合計16の項目で、前回ご紹介したGlobal Rating Scaleの要領で診療場面の観察による5段階評価が行われます。段階は下記の通り大雑把なものですが、研修の進捗状況について客観的な記録が残されることになります。具体例としてシミュレーション教育についての評価が記載されている項目もあるので併記します。 Critical Deficiencies: These learner behaviors are not within the spectrum of developing competence. Instead they indicate significant deficiencies in a resident’s performance. 期待されている学習や成長に見合わない行動があり、明らかな能力(知識・技能・態度)の欠如が示唆される。例:指示されたシミュレーション教育活動に参加しない、無断で欠席する。 Level 1: The resident is demonstrating milestones expected of an incoming resident. 新規採用(医学部新卒)に相当する能力を示している。例:指示されたシミュレーション教育活動に出席し、参加する。 Level 2: The resident is advancing and demonstrates additional milestones, but is not yet performing at a mid-residency level. 研修の進捗は見られるが、まだ能力は習得途上である。例:不足している技能を習得すべく、自主的に指導者と学習プランを構築する。 Level 3: The resident continues to advance and demonstrate additional milestones; the resident demonstrates the majority of milestones targeted for residency in this sub-competency. 研修の進捗が継続し、該当項目において研修で獲得すべき能力の過半数を達成。例:シミュレーション環境で自主的に練習を行い、習得した技能の向上を図る。 Level 4: The resident has advanced so that he or she now substantially demonstrates the milestones targeted for residency. This level is designed as the graduation target. 研修で獲得すべき能力を十分に達成している。卒業の基準を満たす。例:学生や研修医のためのシミュレーション教育活動を主導し、カリキュラム開発にも加担する。 レベルの数字は必ずしも卒後年数との一対一対応ではなく、理論的には評価項目によって入職時に既に卒業に必要な能力を備えているという評価も可能です。逆に、長年の研修を経てもレベル1の要件を満たさない可能性もあります。 外科の研修医が卒業までに基本的な手術手技ができることを確認するのは研修プログラムとしては当然で、決して真新しいことではありません。しかし、今まで何となく流れに任せたり、研修医個人の努力に頼っていた管理責任や説明責任を果たすために研修プログラム側に継続的な報告義務を課してデータ化している点がMilestone Projectの特徴です。 ACGMEによる「良い医師」の評価は今のところ安全な医療を実践するために必要最低限の能力を持ち合わせる初歩的なレベルから導入が進んでいます。しかし、患者は最低限の能力を持つ医師による診療に満足するとは限らず、卓越した能力を持つエキスパート、つまり「名医」に診てもらうことを望んでいます。将来的にはACGMEも研修修了の合否という次元を超えて、「名医」の育成と評価を展開したい意向があるようです。 Kiyoyuki
はじめまして、宮坂清之と申します。麻酔科医ですが、ペンシルベニア大学の外科シミュレーション教育フェローとして留学中です。今回は教育研究を行うのに欠かせない評価尺度に多用されるGlobal Rating Scaleについて紹介させていただきます。 教育することで、より良い医療従事者が作れるのか?最終的にどのような教育が患者のためになるのか?これらの質問になるべく科学的に答えていくのが我々臨床医学教育研究者の仕事です。 そもそも「良い医者とは何か?」という質問に一概に答えるのは不可能です。しかし、良い医者が診療している現場を「見ればわかる」という答えに納得する人は多いでしょう。この「見ればわかる」評価尺度を客観的に数値化するのがGlobal Rating Scaleと呼ばれるものです。一般的には複数のカテゴリーで5段階評価を行うことで、総合的な臨床能力の計測を試みることができます。 例えば手術手技の評価に使われるのがOperative Performance Rating Scale、OPRSなどと呼ばれるもの。良い手術・良い術者とは、無駄な動きが少なく、適切な道具を器用に用いて、組織や臓器を丁寧に扱い、助手も適宜動員して、所定の術式を段取り良く進めるものであることは万人が同意するので、下記の7項目をそれぞれ5点満点で評価していきます。 1. Respect for Tissue 2. Time and Motion 3. Instrument Handling 4. Knowledge of Instruments 5. Flow of Operation 6. Use of Assistants 7. Knowledge of Specific Procedure また、何を満たせば満点なのか具体例を参考のために記載します。項目7、Knowledge of Specific Procedure(術式の知識)に関して例を記すと:
上記の一般的な評価項目の他に、症例の難易度の指標や、術式に特有の評価項目を加えることもできます。例えば腹腔鏡下虫垂切除術では、ポートを適切な位置に設置したか、良好な視野を確保できたか、虫垂根部をはっきり剖出したか、ステープラを良い位置にかませて切離したか…といった項目になります。しかし、あまり細かく項目を設定しすぎると、評価者側の負担も必要以上に増えてしまいます。 米国外科学会が推奨している様式があるので是非参考にして下さい。 外来や病棟診療の評価、手術手技の評価など、様々な様式が開発されています。 日本語化や、日本の実情に合わせた様式の開発も検討願います。 いずれにせよ評価項目の設定は粗く、評価者の判断に依存するので科学的には物足りない部分もありますが、数値化出来ることは研究者としてありがたいことです。 こうした評価を実践的なシミュレーションや実臨床でルーチンに行うようになれば、例えば研修医の「どのくらい出来るようになれば術者として執刀させてもらえますか?」といった質問にも明確に答えられるようになります。実際、2014年3月から施行された米国外科学会のFlexible Endoscopy Curriculumでは、軟性内視鏡を扱う外科研修医はGAGES(Global Assessment of Gastrointestinal Endoscopic Skills)という評価で25点中18点以上の評価を得ることが専門医資格の取得前に必須となっています。そして、これらのトレーニングと評価を事前にシミュレーションで行えれば、患者さんが練習台として不要なリスクにさらされることも防ぐことができるでしょう。 次回は上記Global Rating Scaleの概念を研修医の年次相応の到達度評価に応用したMilestonesについてご紹介しようと思います。 Kiyoyuki
教育研究に関する論文が掲載されている・投稿できるジャーナルのまとめ.日本人によく知られていないのが学術集会とジャーナルとの関係.学会抄録が口演として採択されると関連したジャーナルへの投稿・掲載が義務付けられるものや,掲載を考慮してもらえるものまで様々あります.つまり口演=論文が通るというような構図である.そのような学術集会では,抄録査読は必然的に厳密なものになります.論文掲載を狙って,学会抄録を書いてみるのも作戦です.各学会の役割・ニーズを考えると,口演に採択される可能性がより上がるかも.さらに詳細はジャーナルのウェブサイトをcheck. *(Impact factor 2013), 太字は関連学会 Educational Journals Medical Education (3.617) Academic Medicine (3.468) - Journal of the Association of American Medical Colleges Journal of Biomedicine and Biotechnology (2.706) Advances in Health Sciences Education (2.705) Medical Teacher (2.045) - AMEE Evaluation and the Health Professions (1.672) Simulation in Healthcare (1.593) - The Journal of The Society for Medical Simulation Postgraduate Medical Journal (1.549) Telemedicine and e-Health (1.544 ) BMC Medical Education (1.41) Journal of Surgical Education (1.386) - APDS Surgical Innovation (1.338) Journal of laparoscopic & advanced surgical techniques (1.187) The Clinical Teacher - Association for the Study of Medical Education Journal of Continuing Education in the Health Professions (1.19) General Surgical Journals Annals of Surgery (7.188) - ASA British Journal of Surgery (5.21) Journal of the American College of Surgeons (4.454) - ACS JAMA surgery (4.30) Surgical Endoscopy (3.313) - SAGES, EAES Surgery (3.105) - CSA, AAES The American Journal of Surgery (2.406) - ASE Journal of Surgical Research (2.121) - ASC (Academic Surgical Congress/Association For Academic Surgery The World Journal of Surgery (2.23) International Journal of Surgery (1.650) Surgical Endoscopy and Other Interventional Techniques Minimally Invasive Therapy & Allied Technologies (1.33) - Society for Medical Innovation and Technology, The American Surgeon (0.92) - The Southeastern Surgical Congress General Medical Journals New England Journal of Medicine: NEJM (54.42) Lancet (39.207) Journal of the American Medical Association: JAMA (30) British Medical Journal: BMJ (16.378) BMJ open (2.063) Yusuke
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