臨床シミュレーションは医学教育(医師の教育)が注目されがちですが、臨床医療に関わる全ての職種に関係があることで、看護教育の領域でも研究が進んでいます。 2014年7月に米国の看護師団体NCSBN(National Council of State Boards of Nursing)が看護学部教育におけるシミュレーション教育の多施設共同無作為化比較試験(考え方によっては非劣性試験)の最終結果を発表しました。 このNCSBN National Simulation Studyは全米各地の10施設で入学時に看護学生(後の国家試験受験者合計660名)を無作為に下記の三郡に分類したものです:
結論から言うと、米国の看護学部教育において、臨床実習時間の25~50%をシミュレーションに置き換えても、看護学の知識(試験の点数)、看護師国家試験(NCLEX)の初回受験合格率、そして看護師として就職してから6ヶ月経過するまでの職場での評価に有意差がなかったことが報告されました。つまり、臨床実習とシミュレーション実習の学習効果は看護学部教育においてほぼ同等であると見なせる可能性があります 医学部的に言い換えると、古来からの伝統である臨床実習(いわゆるポリクリやクリニカル・クラークシップ)の時間を半分シミュレーションで置き換えても、CBTの成績や国試の合格率が変わらなかったことに相当する、かなりインパクトのある研究です。 伝統的に看護学部では座学で学んでから、病院等で患者の担当となる診療参加型臨床実習で実地経験を得ます。米国では今後の高齢化を見越して看護師の増員を計るため看護学生数を増やしており、現場での実習受け入れが圧迫されています。特に急性期病棟では医療安全を理由に受け入れ可能な看護学生の数を制限したり、経験可能な処置等に制限を設けるなどしています。よって、看護学校で特に急性期看護の教育と実地経験をどのように確保するかという議論が活発化。臨床実習をシミュレーション教育で代用できないか?どの程度まで置換できるのか?という質問に答えるスタディーが企画されるに至ったわけです。 臨床とシミュレーションを同等(1:1)と結論づけるのは時期尚早かもしれません。しかし、当スタディーは少なくとも看護学部教育において従来の教育手法と比較してシミュレーション教育の非劣性を示唆しています。また、試験の成績や合格率の変動を過度に心配せず看護教育カリキュラムに手を加えてシミュレーション教育を推進できる判断材料にはなりそうです。 https://www.ncsbn.org/JNR_Simulation_Supplement.pdf Kiyoyuki
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6 月 2020
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Kurashima Yo北海道大学大学院医学研究院 Watanabe Yusuke北海道大学病院臨床研究開発センター・消化器外科Ⅱ 特任講師 Miyasaka Kiyoyuki聖路加国際大学 麻酔科 Sunada Masumi
京都大学医学研究科 婦人科学産科学分野 Categories |